Babauoù in Private Notes

アマチュア音楽ユニット、Babauoùに所属するKunio (Josh) Yoshikawaの雑記帳です。 我々のFacebook "Babauoù Book”にもどうぞお越しください。

Slapsticks


渋谷のパルコ劇場で上演している「SLAPSTICKS」を見ました。


作・演出がケラリーノ・サンドロヴィッチ
出演はオダギリ・ジョー、ともさかりえ古田新太 他
ひとりの伝説の映画俳優の物語です。


舞台は1940年のアメリカから始まり、さらにその18年前の回想がメインになります。つまり1920年代のお話。映画の黎明期にドタバタ・サイレント・コメディ界の大スターだったロスコー・アーバックルという男のおかしくも悲しい人生が語られていきます。


チャールズ・チャップリンバスター・キートン、ハロルト・ロイドの三代喜劇王と共演した唯一の俳優であるロスコーの名前は、現在では知られているとは言えません。彼はサイレント時代に、とてつもなく太った体と、その体格で信じられないほどの軽やかな身のこなしを見せるという芸風で一世を風靡しましたが、女優の暴行致死事件に巻き込まれ、真相は謎のまま映画界から追放同然に去っていきました。
彼がスターとして活躍していた時代のサイレント・コメディ映画は、まさに体当たり。本当に電車から落ちたり、車にひきずられたり、CG合成など生まれていない時代に、まさに体を張って人を笑わせる命がけの喜劇作りをしていました。


劇中でもふんだんに使われる当時のフィルムはまさに衝撃的。
それを見るだけでもとても楽しくなってしまうので、芝居の素材に使うのは相当危険な賭けだったと思いますが、主人公である助監督役のオダギリ・ジョーと、お相撲さんの着ぐるみみたいな出で立ちでロスコー役を演じた古田新太の好演で、芝居そのものもとても楽しめる出来でした。


古田新太は、最近かなり太ってしまいましたが、かえって太ってからの方が新しい武器を手にした、という感じで存在感を増している気がします。三谷幸喜のシット・コム「HR」でも、太った体を存分に活かして篠原涼子の変な恋人役をやっていました。今回もさらに肉付きを十倍にして登場。立っているだけで笑わせるロスコー役をいきなり印象づけて、悲劇へと突き進む後半にも彼の存在感が悲しさを際だたせていきます。
助監督役のオダギリ・ジョーは、最近とみに芝居の幅を広げている感じ。今回は映画好きでひたむきな青年をいい意味でとても「甘く」演じて、観客が彼のまなざしを通して劇中の世界に踏み込んでいく良いナビゲーターになっていたと思います。


劇伴のピアノ奏者を演じるともさかりえとの淡く悲しい恋物語も、彼のまなざしの優しさに感情移入できるので、かなりあっさりと描かれているにも関わらず、後半の大きな山場として印象に残ります。出てきた頃は、ある種の不器用さが持ち味なのかな、と思っていましたが、実はかなりクレバーな役者さんですね。彼の声が舞台映えするかどうか心配していたのですが、キャラクターにぴったりのよく通る澄んだ声でした。
コミックを映像化した「サトラレ」も映画では泣けなかったけど、ドラマでは泣けてしまったし、オダギリくんにはこれからも期待したいと思っています。


渋谷パルコ劇場は2月16日(日)まで。
その後、大阪のシアター・ドラマシティで2月26日(水)〜3月2日(日)まで。


(JOSH)