Babauoù in Private Notes

アマチュア音楽ユニット、Babauoùに所属するKunio (Josh) Yoshikawaの雑記帳です。 我々のFacebook "Babauoù Book”にもどうぞお越しください。

2023年ロンドン旅行記【Stage, Event & Exhibition】その2 - Madame Tussauds, Regent's Park, Händel Hendrix House, "Robin Hood : The Legend, Re-written."

7月12日(水)

E2 Madame Tussauds

マダム・タッソー蝋人形館


 その再現技術の素晴らしさで世界的に知られる蝋人形館。ビートルズの名盤「サージェント・ぺパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」のアルバムジャケットでミリタリー・ルックを着ている本物の4人の隣に並ぶ初期の4人が、このマダム・タッソー製作の蝋人形です。その人形は今は展示されていませんが、今回はアビー・ロードを横断する4人の等身大人形が居ました。ミュージシャン、役者、スポーツ選手、英国ロイヤル・ファミリーをはじめ、マリー・アントワネットなどの歴史上の人物、さらにスター・ウォーズやマーヴェルシリーズのキャラクター、ティンカーベルやジャック・スパロウなどの架空の人物にいたるまで、これでもかというくらい大勢の蝋人形が並んでいます。

 撮影は自由。自分のアイドルとの2ショットがいくらでも撮れるので、子供から大人まで館内中大騒ぎです。「自分の手の模型を作ってみる」ワークショップのコーナーなども新しく出来ていました。そろそろ終わりかと思うとまだ先があるという作りになっていて、子供も大人も満足度がとても高いエキシビションです。さすが世界屈指のエンターテインメント施設のひとつ。東京を含む世界各地に分館があるのですが、この充実ぶりはやはり本家ならではだと思います。

 

Regent’s Park 

リージェンツ・パーク

 リージェンツ・パーク野外劇場で「ロビン・フッド」の14:45からのマチネを観るつもりで、マダム・タッソー経由で公園に来たのですが、なんと今日はマチネが無いことが来てから判明。チケットを確認すると19:45からの夜公演でした……。昼夜公演で昼と夜を間違えたのならわかりますが、何故ありもしないマチネの時間を認識していたのか、我ながらまったくの謎でした(汗)。いずれに してもここで待っていても仕方ないので、ランチだけカフェで食べて一旦引き返すことに。リージェンツ・パークは本当に広大で植物も豊かで散歩だけでももちろん価値がある場所です。景色と共にのんびり過ごす老夫婦や、芝生で遊ぶ子供たちを眺めながらゆっくり撤退。長期滞在する時は、こういうところの近所がいいなぁ。 

 

E3 Händel Hendrix House

ヘンデル&ヘンドリックス博物館 

 左の白い建物の屋根裏部屋に1968年から1969年まで伝説的ロック・ミュージシャンのジミ・ヘンドリックスが住んでいました。その隣の茶色の建物にはジミヘンの200年前、18世紀に作曲家ヘンデルが長く暮らしていました。この2つの建物を中で繋げて「ヘンデル・ヘンドリックス・ハウス」として公開しています。

 以前は、1階のショップ以外の場所にはあまり手を加えておらず、チェンバロの置いてある2階のヘンデルの部屋では、音楽専攻の学生が「古楽器」の練習を自由にして良い事になっていました。窓からは石造りの古い中庭に花屋さんのワゴンが見えたりして、バロックの往時を偲ばせる風情がありました。ジミヘンの 屋根裏部屋の窓からは、煙突が並ぶロンドンの古いアパート群の屋上風景が見えて、60年代終わり頃のロンドンの空気を感じさせてくれました。

 コロナ禍中に全面的に改装して、4か月前2023年3月に再オープン。建物内は綺麗に整理され、最新技術のディスプレイなども導入されて、ヘンデルとジミヘンのことがよりわかりやすくなっていましたが、そのかわりに二人の生活感が減ってしまったのはちょっと残念。中庭もカフェが大きく占めていたし、屋根裏部屋からの眺めも近代的なビルがたくさん見えるよう になっていて、以前とは少し雰囲気が変わってしまっていました。

 それでも、チェンバロの部屋ではプロの古楽器奏者のライブを定期的に企画したり、屋根裏のジミヘン部屋の再現はしっかりと保存されていたりするので、訪れてみる価値のある場所だと思います。ロンドンという街の時空を超える懐の深さを感じられることは確かです。ジミヘンはここに住むようになってから、隣がかつてヘンデルさんの家だったと知って、クラシックのレコードを買って聴くようになったそうです。ジミヘンの部屋のレコード棚にはちゃんとヘンデルの「メサイア」のLPが置いてありました。


S2 Robin Hood : The Legend, Re-written. Regent’s Park Open Air Theatre 

「ロビン・フッド」リージェンツ・パーク野外劇場

 さて、あらためて出直してきました。歴史ファンタジー伝説物語「ロビン・フッド」の新解釈による新作です。

 悪政に抵抗する義賊ロビン・フッド一党が、シャーウッドの森に隠れ住んで活動しているという伝説なので、舞台の背景が本物の森であることをどう活かすのか興味津々。以前にここで観た「リトル・ショップ・オブ・ホラーズ」では、ラス トに巨大な怪奇植物が森の中から本当に現れるという使い方をしていて迫力満点でした。

 セットはシンプルで抽象的な二階建て。城のバルコニーと群衆の広場など実際に上下として使うこともあったし、上下で場面を切り替えるという使い方もしていました。1階の円形舞台は外周が回転する仕組み。制約がある中で数々の工夫が見られました。上の2枚の写真は開演前の19:30頃。この時刻には、まだこの明るさがあります。 

 プログラムのキャスト表を見るとトップクレジットはロビンの恋人マリアンになっていました。あれ?と思ってロビン・フッドを探すと下の方にロビン・フッド1、ロビン・フッド2、ロビン・フッド3と書いてある。しかもその人達は他の役も3つくらいずつ兼務。一体どうなってるのかと思いましたが、実はこの設定が肝でした。

 悪政に追われシャーウッドの森に逃げ込んだ人々。秘かに彼らの味方となった凄腕の弓の使い手はノッティンガム執政官の妻であるマリアンでした。マリアンに触発されレジスタンスの運動を始める森の住民たち。フードで顔を隠したゲリラ集団の神出鬼没の動きはいつしか「ロビン・フッド」という伝説のヒーロー像となり、人々に語り継がれていくことになります。

 というわけで、「ロビン・フッド」という人物は実在しないという前提の物語として構築されていたのでした。なので、エロール・フリン風の伝統的緑タイツのロビン・フッド1が庶民のピンチに意気揚々と登場すると、ストーリーテラー役から「今回は君の出番ないから!」と言われてしまいます。「おとぎ話じゃなくて、これは本当の話だから」と言われたロビンは「オレより本当らしいロビンはいない!」と強く主張するも、マッチョなラッセル・クロウ風のロビン・フッド2や、イギリスで大ヒットしたテレビシリーズのジェイソン・コネリー風ロビン・フッド3が次々に登場して説得力崩壊。結局全員否定されてしまってみんなすごすごと天上から物語を見守ることになるという驚きの展開が用意されていました。さらに、死んで「現実世界から去った」者は架空のRobin Hoods(笑)と会話ができるという設定がコメディとしても秀逸で、強固なステレオタイプがあるロビン・フッド像を軽妙洒脱にひっくり返してみせる見事な仕掛けでした。伝説の背景にある「リアルな」庶民の社会を描こうとすれば重く暗くなりがちな物語を、フィクションとしてのロビン・フッド達の登場や、マジックの技術をふんだんに使ってサプライズたっぷりの弓術や呪術の表現で子供も大人も楽しめる作品に練り上げていました。森の仲間たちの超重要人物である大男リトル・ジョンと僧侶のタックをLittle Joan(リトル・ジョーン)とメアリー・タックという女性に変更していたのも、今風と言えば今風ですが、実際に「伝説が作られる」時に起こりがちな、「女性らしからぬ活躍をする二人が伝説で男性化した」という解釈もできるようになっていて、伝説物語を愛する人達にも配慮が行き届いていました。かつて仕事にしていた大河ドラマ作りでよく同じような状況に直面したので、深く共感しました。

 ロンドンの19時台はまだ明るいので、物語が進行するにつれて次第に森の闇が深くなっていくという自然の力の応用も見事でした。それがあまりにも上手くいっていたので、これは昼公演の森の演出はどうするのだろうとすごく気になって、翌日の昼公演をあらためて予約しました。

(※ E=Event & Exhibition、S=Stage Performance)