Babauoù in Private Notes

アマチュア音楽ユニット、Babauoùに所属するKunio (Josh) Yoshikawaの雑記帳です。 我々のFacebook "Babauoù Book”にもどうぞお越しください。

2023年ロンドン旅行記【Stage, Event & Exhibition】その1 - "Paul McCartney - Eyes of the Storm", " Crazy for You"

ロンドン旅行計画のねらいと経緯

 もう4年前のことになってしまいますが、2020年8月末に35年間勤めた職場を満58歳で定年退職しました。自分のバンドBabauoùの集大成ライブを報告した前回の記事からちょうど半年後のことです。私の職場では57歳〜60歳を「定年期間」とする、という制度になっていると知って、通常より少し早い定年退職を選びました。そして、退職したらなるべく速やかに英国ロンドンでの半年長期滞在を実現させたいと以前からずっと考えていました。

 ロンドンを行き先と定めていたのは、長い間プロとしてもアマチュアとしても関わってきた音楽・映像・芝居について、自分に大きな影響を与えた原点である英国文化を現場で再確認することと、ニューヨークと共に常に時代をリードしている先進的な表現を学ぶ希望があったからでした。日本からの英語圏に向けての発信の可能性についても当地でじっくり考察を深めたいと考えていました。

 しかし、退職時は折悪しくコロナ禍のまっただ中。海外どころか国内旅行もままならず、一旦断念せざるを得ませんでした。2022年になってようやく少しずつ状況が改善してきたので、2023年4月に米国UCLAのシンポジウムに参加したのを弾みにして英国行き決行を再計画。しかし、英国(特にロンドン)の急激な物価高騰に加え、大幅な円安が進行してしまい、3年前に計画した時の何倍も費用がかかりそうだということがわかってきました。

 再検討した末、今回は長期滞在にはせず、ひとまず7月に2週間の短期滞在で渡英することにしました。自分自身もかなり久し振りの英国訪問なので、今後あらためて長期滞在する可能性についてもこの旅行で手応えをつかもうと考えました。

 短期旅行なら予算に少し余裕があったので、便利なロンドンの中心部に宿をとって精力的なインプットに勤しみ、結果として、13本の観劇、2本のコンサート、そしてイベントとエキシビションを合わせて10本こなして、しかもうち3日間はビートルズを生んだリバプールに遠征と、まさにぎゅう詰めのロンドン旅行となりました。

 もうそれから1年近くが経ってしまいましたが、つけていた備忘録のメモをブログにまとめておこうと思います。

(※凡例:E=Event & Exhibition、S=Stage Performance)

 

7月10日(月)移動日

9:25発 JAL043 フライト約14時間 (時計は8時間巻き戻し)

15:20 ヒースロー空港着 ヒースローエクスプレスでロンドン市内ウエストエンドに向かう。

 

7月11日(火)

 

E1 National Portrait Gallery - Paul McCartney : Eyes of the Storm

英国肖像画美術館 特別展:ポール・マッカートニー:Eyes of the Storm

 


英国肖像画美術館は、英国国立美術館(National Gallery)に隣接する別館。「肖像」に絞った展示をしています。肖像画だけでなく、写真、イラスト、彫刻などによる肖像もあります。入館料は常設展示は無料(任意で寄付)で、特別展のみ有料。

 今回は、ポール・マッカートニーが自分のプライベートなカメラで1963年から64年の自分たちや周りの人々&出来事を撮った写真展を特別展でやっていました。

 他のビートルズメンバーのリラックスした素の表情がたくさん撮れているのがとても新鮮でした。彼らを囲む状況の記録にもなっていて、彼らがこの2年の間に一気に成功への階段を駆け上がっていったことがよくわかる展示でした。4人の若い音楽仲間の希望にあふれた活動が、次第に熱狂的なビートルマニアを生んで世界の現象化していくのを「中の人の視点」から見ていく、という形になっているのがとても面白く感じました。2024年の夏には日本にも来る予定だとこの時に知りました。この日は時間がなくて、展示に対応するポール達のオーディオ・コメンタリーを聴いている時間がなかったので、後日あらためてもう一度来てみることにしました。

 

 

S1 Crazy for You Gillian Lynne Theatre

「クレイジー・フォー・ユー」ジリアン・リン劇場

 


ガーシュインの名曲で構成された、ネヴァダの田舎劇場再生をめぐるドタバタ騒動を描く1992年ブロードウェイ・コメディのリバイバル。(さらに元になっているのは1930年の「ガール・クレイジー」。この初演はガーシュイン自身が指揮し、オケにはレッド・ニコルズ率いるFive Pennies(映画「五つの銅貨」で有名)が参加していたようです。グレン・ミラー、ベニー・グッドマン、トミー・ドーシー、ジーン・クルーパを擁するベストメンバー時代!)いかにもアメリカのボードビルショー的な要素満載のミュージカルですが、それをイギリス人の観客の前でイギリス人たちがやることで醸し出される独特の英国ノリがあって、ややアメリカ文化を突き放してネタにしている雰囲気が漂い、それがこの舞台をより面白くしていました。こういうところに英語のエンターテインメントが米英の相互作用で進化する過程が見える気がします。この作品のウエストエンドの初演も1993年で、すでに30年の歴史があります。米英どちらでも長年愛されてきた大ヒット演目です。

 2階(Dress Circle)の最前列で見たのですが、劇場がそれほど広くないので、役者の表情までよく見える距離。前のお客さんに遮られる可能性がゼロでとても良い席でした。

 主役のチャーリー・ステンプは、タップも歌もお芝居もかなりハイレベルで見応えがありました。日本では知られていない役者ですが、超一流の1人と感じました。彼はもう2年間この役をやり続けていて、それに見合った洗練も感じることができました。同じ演目の本番を何年も長く継続して重ねることで磨き上げられていくというプロセスは、なかなか日本では実現できません。劇団四季を作って浅利慶太さんがやりたかったことは本来はきっとこれだったのではないでしょうか。

 ロンドン最初の観劇としてとても満足だったのですが、痛恨だったのは旅疲れで一部寝落ちしてしまったこと。よい席だったのに……。後半戦でもう一度観ると心に決めて初日のスケジュールは終了。もう寝落ちしないようにしっかりと睡眠を取りました。