Babauoù in Private Notes

アマチュア音楽ユニット、Babauoùに所属するKunio (Josh) Yoshikawaの雑記帳です。 我々のFacebook "Babauoù Book”にもどうぞお越しください。

2023年ロンドン旅行記【Stage, Event & Exhibition】その6 - "Back to the Future: The Musical"

7月16日(日)

S8 Back to the Future: The Musical   Adelphi Theatre

バック・トゥ・ザ・フューチャー」 アデルフィ劇場

 

 映画の脚本&制作を担当したボブ・ゲイルと脚本&監督のロバート・ゼメキスが中心になって実現したミュージカル版だけあって、映画のリアルタイムファンである60代の観客を納得&興奮させると同時に、連れてきた孫達も大喜びさせるという難しいミッションをしっかりクリアしていました。

 主人公マーティの運転するデロリアンが時計台の雷の電気を利用して1955年から1985年にタイムリープするクライマックスの場面では、デロリアンを加速させるマーティと時計台に上って外れた電気のプラグを繋ごうとするドクの2カ所の芝居を、透過スクリーンを2枚使う手法を用いて、ライブで映画と同じカットバックにして見せるという驚きの舞台表現も登場し、客席を大いに沸かせました。フィナーレではこれまた映画と同じように、未来から帰って来たドクの新デロリアンがマーティを乗せた後、ちゃんと空中に浮遊して客席に向かってせり出して飛んできたりと、装置のテクノロジー的にもとても見応えのある舞台になっていました。

 もともと映画の30周年企画として2015年にブロードウェイで舞台化するという原案がなかなかうまく行かず、プロダクションの拠点を英国に移して、2020年のマンチェスター公演が初演となりました。しかし、数日でコロナパンデミックのために終了してしまい、実質的にはこのアデルフィ劇場でのロンドンウエストエンド公演(2021年9月~)が本格的な上演となった英国発の舞台です。こちらで大成功したことで、ちょうど私が観たこの頃にようやくブロードウェイでのプレビュー公演が始まり、今(2024年5月現在)ではブロードウェイでも観られるようになっています。

 原作映画の魅力をとてもうまく舞台に凝縮し再現してみせた舞台でしたが、第2幕の冒頭は映画にはない場面で、これがまたとても印象的でした。休憩後、幕が上がるとセットは未来のイメージ。ドクが歌い上げる「21世紀の夢」のシーンから始まります。未来的な舞台装置の中で21世紀の素晴らしい理想社会を歌うドクは、マーティに起こされて1985年の現実世界に引き戻されます。昼寝から目覚めたドクは、マーティに今夢で見ていたまさに夢のような21世紀の様子を語って聞かせます。「マーティ、21世紀にはね、公害もないし、飢餓もない、そして、もう疾病もないんだ!(場内大ウケ)」。1985年から30年前の1955年にタイムスリップする物語はそのままでありながら、1985年のほぼ40年後の世界で観ている私たちとの接点をこうしてドクが作ってくれます。2020年を過ぎても人類がまだ何も解決できていないことをつきつける社会批評にもなっていて、とても気が利いていました。音楽のアラン・シルベストリは自らの映画サントラ音楽をふんだんに使っていますが、この「21st Century」という新曲では打込みを多用した未来的なサウンドを展開。1955年、1985年、2020年代の音楽が交錯する音楽劇としての面白さも存分に味わえました。

 来年2025年には劇団四季による日本語版の上演も決まったようです。ロック音楽の歴史をたどる旅でもあるこの音楽劇を日本語でどこまでの品質に仕上げられるのか。注目したいと思います。

(※ E=Event & Exhibition、S=Stage Performance)