Babauoù in Private Notes

アマチュア音楽ユニット、Babauoùに所属するKunio (Josh) Yoshikawaの雑記帳です。 我々のFacebook "Babauoù Book”にもどうぞお越しください。

「国民の映画」by 三谷幸喜



渋谷パルコ劇場の千秋楽を観てきました。


1941年のドイツ・ベルリン。ヒトラー内閣の宣伝大臣ゲッベルスは女流映画監督レニ・リーフェンシュタール、俳優のエミール・ヤニングス等、ドイツを代表する映画人たちをホーム・パーティーに招いた。ナチによる焚書の対象になっていた作家エーリヒ・ケストナーも何故か招かれていた。映画をこよなく愛するゲッベルスは、一流のスタッフを揃えて世界の映画史に残る「国民の映画」を作ることを宣言しようとしていたのだった。しかし、招かれざる客・警察長官ヒムラーと国家元帥ゲーリングまでが現れ、一夜の宴は軋む歴史の歯車に巻き込まれていく……。


三谷さんは50歳になった今年、舞台を4本予定しています。「国民の映画」は正月の「ろくでなし啄木」に続く2本目の作品。三谷さん自身の企画ですが、ある意味最も三谷幸喜的でない舞台に仕上がっていました。もちろんいつものウィットに富んだ笑いは健在。しかし終盤に向かって、物語は極限状態を生きる人間の心のあり方を厳しく浮き彫りにしていきます。


非日常的な極限状態にある人の心理。きっと3月11日以前に観ていたら、遠い昔のひとつの出来事として観られたのだと思いますが、我々自身が極限状態にさらされてしまった大震災発生後には作品の意味も大きく変わってしまった様に思います。そんな中、三谷さんが物語の終盤に向けて変化球でなく直球で勝負してくれていたことで、とても重いけれども今だから観る意味のある舞台になっていました。この作品が震災によって押しつぶされずに済んだことを嬉しく思います。キャストのみなさんもとても苦悩しながら演じておられますが、その葛藤を表現のひだに織り込める実力者揃いなので、作品がより深いものになっているという気がします。映像作品とは一線を画す演劇の同時性・ライブ性についても考えさせられました。


東京は千秋楽でしたが、これから大阪、横浜と公演は続きます。


本筋とは離れるのですが、第二幕の冒頭の音楽が大好きな曲だったので、最後にご紹介します。
ドイツ映画の古典的名作「会議は踊る」からリリアン・ハーヴェイが歌う「唯一度だけ」。