Babauoù in Private Notes

アマチュア音楽ユニット、Babauoùに所属するKunio (Josh) Yoshikawaの雑記帳です。 我々のFacebook "Babauoù Book”にもどうぞお越しください。

マイケル・ジャクソン This Is It


幻のロンドン公演のリハーサル記録をまとめた映画です。
参加した誰もが、50歳のマイケルの驚異的な体力とアイディアと希望に引っ張られ、確実に歴史に刻まれる伝説に加われたことに興奮し、そのために全身全霊をかけてマイケルについていく。そんなとてつもなく厳しく、とてつもなく幸福な時間の記録です。


無数にあるヒットナンバーの1曲ずつがそれぞれまるで一本のミュージカルのように緻密に大胆に仕組まれたステージ。
音楽、ダンス、映像、視覚効果、音響効果、あらゆる要素をこれでもかと膨らませ、妥協無く追い込んでいくのは、「マイケルとやれるのが一生の夢だった」と無邪気に喜ぶ超一流プレイヤー&超一流スタッフと超難関のオーディションを突破したスーパールーキーたち。そんな人々を相手にして、なおマイケルは厳しい注文を連発。しかし、皆その厳しさを真正面から受け止めます。その緊張感が張り詰めていくごとにステージのレベルが上がっていくのを実感できます。参加した誰もが、これまでの人生で磨いてきた全てをマイケルと作るステージに注ぎ込もうとしていました。
リハ後にみんなを集めたマイケルはにっこり笑い、「ありがとう。僕たちは一つのファミリーだ。一緒に夢を叶えよう。」と語りかけます。みな子どものように頬を紅潮させていました。


映画は、リハーサルの記録ですから、夢が叶うと信じている彼らの姿だけを映し出しています。
幸福の絶頂に居る彼らはほんの数日後に口を開く奈落の存在をまだ知りません。
夢を叶える扉の目前で置き去りにされてしまう彼らの無念を思うと涙が止まりませんでした。


この映画を観て、ジョン・レノンが死んだ時に一番強く感じたことをはっきり思い出しました。
それは、ジョン・レノンの音楽の続きをもう聴くことができない絶望感。
彼には音楽を続ける意志があり、そこには未知の新しい何かが必ずこめられていくはずでした。
それをもう二度と受け取ることができなくなってしまった悲しみ。
一晩中涙が止まらなかったのを今もはっきりと覚えています。


最近のマイケル・ジャクソンのことを、私はよくわかっていませんでした。
活動ペースが鈍くなっていたこと、身体の調子がどうもよくないという噂。
訃報を耳にしたときもその突然の死がショックではあったものの、あらゆることをやりつくして人の何倍も早いペースで生きた人だから仕方なかったのかもなどと勝手に思い込んでいました。


全然違いました。
彼には活動を続ける意志があり、伝え続けたいメッセージがあった。
マイケル・ジャクソンは、そのためにはわずかな妥協もしない正真正銘の表現者であり続けていました。


なのに彼は死んでしまった。
発表されるべきステージが99%準備されていたのに、永遠に私達に届くことは無くなってしまった。
そして、その先に進むマイケルも見られなくなってしまった。
本当に無念です……。