ロマン・ポランスキー監督の最高傑作、という評がありました。有名監督の新しい映画が封切られると大抵こう宣伝されるものですが、今回は、そうかもしれないな、と私も思いました。
ポーランドに住むユダヤ人が第二次大戦中に体験した苦境を、1人のユダヤ人ピアニストを追うことで描き出していく作品です。 主人公は決してヒーローではなく、家族が殺されるのをわかっていながら自分だけが逃げる道を選び、ぎりぎりの状況の中で情けない姿をさらしながらも必死で生き延びていきます。善悪も単純には分けられず、仲間のはずの地下組織の同国人に見捨てられて死線をさまよい、最後には敵であるドイツの将校が彼を救います。映画の最後に、ピアニストが88歳まで生きて2000年に亡くなったこと、彼を救ったドイツの将校がソ連の収容所で終戦の10年後に亡くなったことがテロップで紹介され、観客は今観てきた物語が「事実」であったことを認識させられます。 それは同時に、淡々と積み重ねられる残酷な場面を通して丹念に描き込まれた、戦時中の人間達の「狂気」もまた「事実」なのだとつきつけられることでもありました。
ポランスキー監督は、昔から「死」や「恐怖」の生々しい描写に特徴のある人ですが、今回の映画ほど、その描写に必然性を感じられたのは初めてでした。その意味でも彼のマスターピースと言えるのではないかと思います。
どんなに論理を組み立てていたとしても、「戦争」はそれを狂気に歪めてしまうという「事実」。
映画が描き出していた本当の「恐怖」が、いま目前で現実に進行しているのは本当に恐ろしいことです。
(Josh)
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