新作だけでなく、古い名作映画も観る人なら、1950年代の終わり頃、映画のオープニングが革命的に変化したことに気付いているでしょう。
単なる目次から、表現に工夫を凝らした映画本編のプロローグとしての存在へ。
それを最初に仕掛けたのがグラフィック・デザイナーのソール・バスだと言われています。
「黄金の腕 (The Man with The Golden Arm」の象徴的なアニメーションを皮切りに(このポスターデザインもソール・バス)、「グラン・プリ」のマルチ画面モンタージュ、「ウエスト・サイド物語」の壁の落書きに忍ばせたクレジット等、現在では基本と思われている発想の多くの原点が彼にあります。
ヒッチコック監督の「めまい」や「サイコ」も彼の仕事ですが、私が初めて知ったのは「サイコ」の伝説的なヒロイン殺害シーンのモンタージュがソール・バスの絵コンテで撮られたということ。
あらためてソール・バスの凄さを感じました。そして、タイトルだけでなく映画のキーになるシークエンスを彼に任せると決めたヒッチコックのディレクターとしての先鋭的な感覚。さすがです。
今回観たDVDは発売されたばかりなのですが、内容は彼に関係のある昔のドキュメンタリー2本で構成されています。
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1本めは、1977年にソール・バス自身の解説入りで作られた「ソール・バスの映画タイトル集」。彼が映画本編への思い入れを基礎に、如何に自由な発想でタイトルを作っていったかが伝わってきます。残念ながらヒッチコック作品は収録されていませんが、「黄金の腕」「グラン・プリ」を始め、多くのタイトル映像が観られます。
2本目は、ソール・バス自身が監督し、1968年度のアカデミー最優秀短編ドキュメンタリー賞を受賞した「なぜ人間は創造するのか (Why Man Creates)」。人間がその知恵をしぼって道具や文化を創造していくプロセスを人類の歴史から紐解いていく壮大なドキュメンタリー映画。しかも、それを25分という短時間で過不足無く描いています。ただ単に歴史をなぞるだけではなく、オリジナリティの獲得法、アイディアのヒネリ方等をウィットたっぷりに例示して見せてくれていて、クリエイターを目指す人の為のテキストとしても楽しめます。
今、自分が仕事で関わっている作品のテーマともつながりを感じたのですが、人間が、怒りや哀しみや喜び・楽しみを誰かと共有したいと思う生き物である、という定義が彼のメッセージのベースにあります。
アイディアとコミュニケーションという特性を得て、弱い生き物である人間は、多くを発信し多くを受け止めることで、この地球上で生き延び、大きな発展を遂げてきました。
そして、人は何を発信してきたのか、という問いに関してソール・バスは印象的な言葉でドキュメンタリーをしめくくっています。
I am unique.
I am here.
I am.
私は他の誰でもない。
私はここに居る。
私は存在している。
創造とは、人から発せられるその叫びなのだ、と。
提示される豊かな映像とあいまって、とても刺激的に感じました。
- 出版社/メーカー: ファーストトレーディング
- 発売日: 2006/12/14
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ウエスト・サイド物語 (コレクターズ・エディション) [DVD]
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