Babauoù in Private Notes

アマチュア音楽ユニット、Babauoùに所属するKunio (Josh) Yoshikawaの雑記帳です。 我々のFacebook "Babauoù Book”にもどうぞお越しください。

L.F.E.なマンハッタン・トランスファー


先日のエントリーで、Lyrically Fantastically Elastic Pop Musicを目標とする、という話をしましたが、では、私たちにとって既存のどんな音楽がそれなのか。


Babaouo in Public (MySpace)のプロフィールに「影響を受けたアーティスト」という欄があります。
そこに挙げた人たちがまさにそのお手本だと考えています。一過性の流行音楽になっていたかもしれない黎明期のロックに無限の可能性を与え、永遠の命を吹き込んでみせたビートルズを筆頭に、ソウル・ミュージックの枠組みを軽々と壊してみせたスティービー・ワンダー、天才詩人パーニー・トウピンを得て音楽的イマジネーションの天才を発揮したエルトン・ジョン、そういう先人たちの冒険を研究しつくしたビリー・ジョエル、裾野をさらに広げようとする求道者スティング、メカニカルな方向からポップ実験にチャレンジするトーマス・ドルビー。そして、ビートルズの"Attitude"をハード・ロックを起点に開花させたクィーン、プログレを起点にしたフォーカス。各々、あくまでもポップ音楽であることにこだわりながらも一つ所にとどまることを潔しとしない弾力性豊かなミュージシャンたちだと思います。(今はちょっと違っちゃっている人も居ますけど……)


欄には入れなかったけれども、ポール・サイモンU2等、そういう方向性を持つミュージシャンはまだまだ居ますが、今日はそんな中でもちょっと毛色の違うマンハッタン・トランスファーの話。


世界でいちばん愛されているジャズ・コーラス・グループのひとつですが、音楽ジャンルの許容力がとても高いことでも知られます。元々クロスオーバーの傑作として知られたウェザー・リポートの「バードランド」を歌ってしまったのを初めて聴いた時には本当に度肝を抜かれました。



そして、その頃のマンハッタン・トランスファーはまさにElasticなグループだったと思います。ジャズの枠組みを大幅に逸脱してもっともロックに接近した時代。ロックに接近しながらも、ジャズから離れもせず、そのフュージョンを目指したところが彼らの特徴でした。この時期の3枚のアルバムは是非アルバム単位で聴いてみていただきたいと思います。


Extensions

Extensions


ジャズ・コーラス界のビートルズになったアルバム。これまでも少しずつ試していたノーマルなジャズからの逸脱に自信をつけたのか、とても旺盛な実験精神にあふれています。その典型が前述の「バードランド」と「トワイライト・トーン」。「バードランド」は今でもライブで定番のクロージング・ナンバーですが、最近ではもうライブではやらなくなってしまったトワイライト・トーンの方に決定的なロックのエッセンスが潜んでいます。この曲がアラン・ポールのオリジナルだというところもポイントです。(トワイライト・ゾーンからモチーフを借りていますが)


女性メンバー二人の歌唱力が圧倒的なので忘れがちですが、トータルにグループをプロデュースしているティム・ハウザーと作編曲の才能にあふれたアラン・ポールの存在も忘れてはなりません。マンハッタン・トランスファービートルズやクィーンと同じ、換えの効かない四人組です。シェリル・ベンティーンはローレル・マッセの後釜ですが、それ以降の結束の固さを見ても、シェリルが加入したこのアルバムによってマンハッタン・トランスファー・ミュージックが完成した、と位置づけて良いのではないかと思います。


Mecca for Moderns

Mecca for Moderns


このアルバムからドゥ・ワップの「Boy from New York City」がヒットし、1981年のグラミー賞をポップ音楽部門で取り、前年のジャズ部門での「バードランド」の受賞と合わせて、ジャズとポップの両部門でグラミーを取ったアーティストになりました。



このアルバムの個人的なベスト・トラックは「Kafka」です。タイトルに恥じないシュールなスキャットナンバーですが、とんでもなくキャッチーでかっこいい。ロックでもジャズでもない何か、になってます。


Bodies & Souls

Bodies & Souls


「American Pop」のシングルヒットが有名です。「Spice of Life」ではスティービー・ワンダーがハーモニカでゲスト参加。個人的ベストトラックは超絶技巧サンバ「Why Not!」です。いつ聴いてもしびれます。このアルバムではやや産業ロック傾向に偏り、たぶんその反動もあって、マンハッタン・トランスファーのElastic路線はここで打ち留めになります。この後は、アルバム毎にジャンルをしぼって掘り下げていく、という作り方にかわり、それはそれで素晴らしい仕事をしていますが、もっともL.F.E.なこの3枚のアルバムは全ての曲がドラマチックで、流れはスリリング。今でも大好きです。