Babauoù in Private Notes

アマチュア音楽ユニット、Babauoùに所属するKunio (Josh) Yoshikawaの雑記帳です。 我々のFacebook "Babauoù Book”にもどうぞお越しください。

井上ひさし・「組曲虐殺」


小林多喜二特高につけ狙われ、拷問されて虐殺されるまでを描いた、笑いたっぷりの音楽劇……。


一行で書くとこうなります。
とても成立するとは思えないものが完璧に成立していました。


多喜二の生涯を茶化しているのではありません。
登場人物は多喜二、多喜二の姉、多喜二を愛する女性二人、そして多喜二を付け狙う特高刑事二人の計6人。
追われる多喜二と彼を取り巻く人々の緊張の糸をはりつめたまま、人間は皆(むろん特高の刑事も)かくも哀しく滑稽なものである、と、それ故多喜二は書かねばならず、死なねばならなかったのだということを信念をもって描き出したお芝居でした。


音楽は舞台中央上段に置かれたグランドピアノで小曽根真が弾く生演奏のみ。
これが井上ひさしが書いた言葉と呼応してすさまじい緊張感とユーモアを同時に伝えていました。合唱で、ソロで、随所で歌われる歌もみな素晴らしかった。出演者の一人は「自分は本来歌を歌う役者ではないけれど、自分が声を出すとその時のテンションに合わせて小曽根さんがピアノで返してくれる。だから私でも歌える」と話してくれました。
天才ジャズ・ピアニスト小曽根真が、井上ひさしの言葉(セリフと歌詞の両方)を介して役者とセッションをする。そんな仕掛けになっていたと思います。特に、優れた歌い手でもあるミュージカル俳優・井上芳雄演じる小林多喜二とメロディを決めずにかけあったというインタープレイの部分はまさに圧巻でした。
小曽根真はピアノ一台で唱歌、ポップス、ロシア民謡風(これも効いていた)と振れ幅の広い音楽を次々に繰り出しましたが、特に、「ブルース」に「虐げられた労働者の歌」という本来の役割を与えていたのが印象的に残りました。


それにしても、井上ひさし、恐るべし。
75歳にしてこんな作品を書きあげてしまうとは……。遅筆は相変わらずのようで初日の4日前に出演者も結末を知ったとのことでしたが、それでこの完成度と切れ味。彼の泉はまったく枯れていないようです。
言葉と音楽の可能性についても、あらためて考えさせられたお芝居でした。ジャズでライブですから本当は生でなくちゃならないのですけれど、これは何とか映像に残して多くの人に触れて欲しいと心から思います。


東京公演は10月25日(日)まで、天王洲の銀河劇場。
兵庫公演が10月28日(水)〜30日(金)兵庫県立芸術文化センター
山形公演が11月1日(日)〜2日(月)川西町フレンドリープラザ。
興味を持たれた方は是非足をお運びください。一見の価値ありだと思います。