Babauoù in Private Notes

アマチュア音楽ユニット、Babauoùに所属するKunio (Josh) Yoshikawaの雑記帳です。 我々のFacebook "Babauoù Book”にもどうぞお越しください。

マイケル・ムーア監督「キャピタリズム〜マネーは踊る」



不況のどん底の中、豊かでない市民の家が次々に銀行に取られていく。「立入禁止」の札が貼られた家の前で車中生活を送る家族。


しかし、もともと古く壊れかけていた家を買う人もない。家族は、誰も住んでいない「元」自分の家の前で車の中に暮らすのだ……。
なんと異常な光景。


そして、その家を管理する銀行が破綻しかけた時、国は何億ドルもの資金をつかって銀行を救済した。
そのお金が何故彼らには還元されないのか。説明はいくらでもできるかもしれないけれども、生活者の目線に立てばやはり理不尽にしか見えない。
その一方で、大不況を招いた立役者であるウォール街の人々は今も1億円以上のボーナスを平然ともらい続けている。


資本主義ってこういうことだったの?
今回は、ここにマイケル・ムーアが斬り込みます。


証券の世界はどんどん複雑さを増し、よくわからない「数式」を商品にして売り買いし、それでボロもうけしたり、大損したりしている。何も生まない人々が大金持ちになり、地道にコツコツと生産を続けてきた人が、ある日突然自分の家を奪われる。


やっぱり何の「実り」も生まずにお金を動かしていたら、人間社会は滅びていくのではないでしょうか。
そんなに遠くない未来に。そんなことを考えさせられる映画でした。


個人的に印象に残ったのは、アメリカの旅客機のパイロットがタコス屋さんの店員よりも給料が安い、という話。パイロットも客室乗務員もフライト以外の時間でアルバイトをしないと食べていけない。これにはちょっと驚いてしまいました。それで航空会社は安全を守れるのでしょうか。


まだ記憶に新しい、ハドソン川に旅客機を着水させて乗客を救った機長さん。彼は全米のヒーローとなり、スポーツ等のイベントにゲストで招かれ、メディアにも幾度も登場しました。その彼が、こういう機会にこそ全米のパイロットたちを代表して訴えねばならない、と公聴会で語ります。「市民の安全な旅を守り抜くこの仕事に就く者たちが誇りを持てるように、乗務員の報酬をもう少し改善してもらえないか。」


聴いている議員。
1人。


まあ、このあたりの描き方はマイケル・ムーアならではのデフォルメが入ってると思いますが、確かに彼が訴えた事実は私達の耳には届いていなかったし、バッファローで国内線の墜落事故を起こしたクルーがアルバイトによる睡眠不足状態だったという事実はやはり重いです。証券の世界を真っ向から描いたオリバー・ストーン監督作の映画「ウォール街」で、マイケル・ダグラスが地方の航空会社を再生させると見せかけて解体して売り飛ばす場面をふと思い出しました。


映画としての完成度は「ボウリング・フォー・コロンバイン」をなかなか超えられないという印象ですが、今という時代を理解するためにも一見の価値はある映画だと思います。皮肉にもその資本主義によってマイケル・ムーアが低予算映画を効果的に運用して大金持ちになっている、という裏話もありますけど……。