Babauoù in Private Notes

アマチュア音楽ユニット、Babauoùに所属するKunio (Josh) Yoshikawaの雑記帳です。 我々のFacebook "Babauoù Book”にもどうぞお越しください。

告白



中島哲也監督の最新作。
傑作だと思いました。
救いのまったくないストーリーですが、今を生きる人間たちへのストレートな問題提起になっていて、しかも観る人に宿題を満載で残す仕上がり。なのに、エンターテインメントとしての完成度が高く、ラストカット・最後の音に至るまで観る者をスクリーンに釘付けにします。
以下、結末を明らかにはしていませんが、全体の内容には微妙に触れていますので、まだご覧になっていない方はご注意のほどを。


冒頭は中学一年の3学期修了式のホームルーム。勝手なお喋りと動きで騒然としている生徒達が、それを気にせず静かに語っていく担任・松たか子の言葉の端々に次第に惹きつけられていく。
何を観てよいのか冒頭とまどっているお客さんはこのクラスの生徒と同じように、あれこれ気を散らしながら次第に松たか子の言葉に引き寄せられ、息を呑んで聞き耳を立てるようになります。松たか子の抑制の効いた(それによって凄味の出ている)台詞もさることながら、その編集と映像作りの手口がとても鮮やかでした。教室で先生が静かに語っているシーンをモノトーンで描いているのにスリル満点。


しかも、原作を読まず予備知識無しに観る人には、まだそのホームルームが終わらないうちに最初の衝撃がやってきます。普通のサスペンスものならラストに来る情報(犯人の正体と手口)が冒頭10分ほどで全て明らかになってしまうのです。
そして、そのことに呆気にとられていると実はその奥にさらに深い真実があることが示唆されていく。


ただし、すべては登場人物の誰かの「告白」で構成されています。
つまり「ウソ」かもしれません。


物語が進み、新たな情報が浮かび上がるたびに疑問が生まれます。「一体、誰が本当のことを言っているのか?」
まさに「藪の中」。そのひっかかりは、ついに衝撃のラストシーンにまで影響を及ぼします。あのラストシーンは本当なのか…。
松たか子の最後のひと言の意図は?


それを考えさせてしまおうとしたところにこの作品のツボがあるように思いました。「わかりやすく、わかりやすく」と口を揃えて言っているうちに、いつのまにか日本のエンターテインメントの多くの作品はとてもレベルを落としてきてしまったように思います。あえて「わからない」ことを物語のフックにしてしまったことがこの映画に大いなる魅力を与えていると感じました。観終えてからも気になって仕方ないし、誰かと語りたくなる。ヒットするのもよくわかります。


私もやっぱり気になって、すぐに原作を読みました。映像主義的にさえ見えた映画のディテイルがかなり原作に忠実であることに驚きました。
文字表現ならではの技法を鮮やかに駆使した原作の、とても映像化は難しいと思われる部分をかわさず、あえて果敢に挑んだ中島監督の志の高さを感じました。自分で高く上げたハードルが、結果として新しい発想、新しい描き方につながっていったのではないかと思います。


ハッピーな映画ではありませんから、誰にでもお勧めというわけにはいきませんが、ポップなフィールドに軸足を置きながらあえてダークな世界に斬りこんでみせたという点で、クリス・ノーラン監督の「ダークナイト」にも通じるところがあるように思いました。