Babauoù in Private Notes

アマチュア音楽ユニット、Babauoùに所属するKunio (Josh) Yoshikawaの雑記帳です。 我々のFacebook "Babauoù Book”にもどうぞお越しください。

Krista - Babaouo初めてのオリジナル曲


それは確か29年前の今頃の季節。私は大学の友人のホーム・パーティに呼ばれました。


ちょうど免許取り立てだった19歳の私は、「土地勘のない友達を一人車でピックアップしてきてもらえない?」というオーダーを受け、自宅から友人宅に向かう途中で大学の寮に寄り、女の子を一人乗せて友人宅に向かうことになりました。


どんな子かと尋ねると、何とアメリカ人の9月入学生。東京の土地勘なんて無いに決まっていました。まだ来日してから1年に満たないので、日本語はあまりしゃべれないとのこと……ちょっとドキドキしてきました。


彼女の名前はKrista Wergelandさん。身長は160cmくらいでアメリカ人としては比較的小柄。特徴は?と聞くと「Joshさん(仮名)が好きなタイプよ。髪が長くてすごい美人。」 以上。……それだけ?


よくよく聞いてみると、友達が先週大学のラウンジでたまたま隣に座ってしゃべっているうちにパーティに来てみる?という話になったとか。それっきりらしいので当然写真もなし。(日常的にお互いの写真を撮るという習慣はまだあの頃はなかったように思います。)当日は日曜日なので、大学のラウンジならすいているだろうということで、10日後の週末、お昼前に大学のラウンジに迎えに行くことになりました。


そもそも女の子を乗せるのが初めてなのに、いきなりアメリカの美人留学生とは…(汗)。当日までの10日間、頭の中をずっと「クリスタ。大美人。身長160cm」がぐるぐる巡っていました。ぐるぐるしてるけど情報が少なすぎて全くちゃんとした像を結ばず、もやもやして霞のかかった向こうに大美人らしい女性の姿がぼんやりふわふわ浮かんでいる、という感じ。


さて、そんな中。いつものBabaouoの練習を済ませての帰り道で、「どうせイメージがぐるぐるしてるんだから、この際曲作ってみちゃおうかな。」と突然思いつきました。高校時代のBabaouoの活動は基本コピー三昧でしたが、SatoruもAyaも私も少しだけ習作の曲を作ったことがあり、やっぱりバンドのオリジナル曲欲しいよなあ、といつも語り合っていたのです。


"Krista, with your blue eyes, you always fascinate a man like me..."


という1行目はあっという間に思いつきました。謎に満ちたその眼差し、でも僕はそれに惹かれてしまう。すっかりそんな気分になっていたからです。しかし、メロディーが……。今に至るまで自分の才能の無さに悩まされるのがこのメロディー作りの艱難辛苦。つぎつぎとモチーフが湧いて出てくるSatoruをうらやましく思うこともしばしばです。とはいえ、時々ふと旋律が思い浮かんだりすることはあるのですが、絶対音感がなく相対音感も怪しい私は思い浮かんだメロディーを正確に書き付けておく、ということができません。


ではどうするかというと、思いついたらひたすら脳内反復。家に帰って鍵盤かギターで探って採譜する、という手順しかありません。ところが脳内のメモリ不足のせいか、ちょっと気を散らすとその旋律を忘れてしまうのです。漠然とは残るのですが、何かが違っていて納得できず、結局白紙に戻してやり直し、というパターンの繰り返しでした。


一番困ったのは電車の中でふとメロディーが浮かんだ時のことでした。口に出して歌ってみるわけにもいかず、一生懸命他のことを考えないように目を閉じて脳内反復しているうちに自宅最寄り駅を乗り過ごしてしまいました。仕方なくそのまま終点で降りてホームの端っこに行き、10回くらい声に出して歌っておさらいして、「よ〜し」と思って上り電車に乗り、今度は降り損なわないように、最寄り駅で駅名を確認した瞬間に「あれ?(忘却)」みたいなことも。


結局、当時は結構高価だったマイクロカセットレコーダーをバイト代を貯めて購入して持ち歩くようになり、この時もやはり帰りの電車内でひらめいてしまったメロディーを、乗客の皆さんの視線を避けるように車両接続部の扉を開けてそこに首を突っ込んで小声で歌って録音。周りのお客さんはかなり気持ち悪かっただろうと思います……(^_^;。帰宅して、音の悪いマイクロカセットから電車走行の大轟音に埋もれたメロディをなんとか拾い出したのが、"Krista" 1行目のメロディーになりました。


(※手元で簡単に音をさぐれるヘッドホン仕様のミニ鍵盤とかあればいいのになあ、と思っていたあの頃。今やすっかり実現していて、iPodさえあればどこでもできちゃうわけですが、せっかく夢のツールを手に入れたのに近頃は全くひらめきません…(悲)。)


そんな悲劇(喜劇)的な状況の中で、"Krista"の曲作りは進み、なんとか歌詞と曲が最後までたどりついて、カセット4トラックMTRでデモ録音をしたのがパーティの前日でした。(※その後、今に至るまで、曲を作り始めて一週間で最後までたどりついたデモを作ったことはありません。作品作りにとっていちばん大事なのはしめきりだなあ、とつくづく思います。)
そして、ついに当日。


女の子に「君のイメージで曲を作ったんだ」なんてキザなことを言える状況はなかなか無いことだな、とか思いつつ大学構内に車を停め、待ち合わせ場所のラウンジへ向かいました。ラウンジの扉を開け、さてどうやって見つけようと考える間もなく向こうから小走りに駆けてくる長い髪の女の子の姿が…。それがクリスタでした。


弾むような笑顔で「迎えに来てくれてありがとう!」と語りかけてくる明るい活発なアメリカン・ガール。確かにとっても美人でした。


しかし……


その満面の笑顔に光るさわやかなブラウンの瞳。




ひえー。


"blue eyes" じゃない……。




カーステレオにスタンバっていたデモテープは、結局聴かせられずじまいでした。髪の色によくマッチしたブラウンの瞳をくりくりさせてよく笑うクリスタとの短いドライブは、それはそれでとても楽しかったのですが、内心では自分のステレオタイプな「アメリカ美人女性像」が恥ずかしくてかなり落ち込んでいたのでした。


そんなわけで、曲はお蔵入りにしようかとすら思ったのですが、そうそう曲を量産できない私にしてみれば、非常に貴重なデモです。せっかく作ったんだから仕上げようというバンドメンバーからの励ましもあり、気を取り直してBabaouoのセッションに持ち込んでアレンジを練ることにしました。デモテープはアコースティックギターの弾き語り中心で作りましたが、本番ではAyaのピアノをフィーチャーすることと、エレキ・ギターをツインリードにしてみようというアイディアをベースに何度かセッションを重ねて組み立てていきました。


実は2番の頭の歌詞は当初、"Krista, with your blonde hair, you make me feel the cool wind in the air"でした。「碧眼に金髪」という完全なステレオタイプ(^_^;。さすがに恥ずかしくなってしまって、本物のクリスタに合わせて髪は "brown" に直しました。せめてもの処置。ただ、一番の "blue eyes" は結局直しませんでした。作った曲のやや謎に満ちた女性像が、からっと陽気なリアルクリスタとどうしても100%重ならなかったのです。


結局、リアルクリスタ風に完全に書き換えることはせず、彼女と会うまでの数日間に感じていたもやもやドキドキわくわく感をそのまま曲にした感じの仕上がりに。こうして、詩も曲もつたないままながら、Babaouoの初オリジナル曲、"Krista" ができあがったのでした。



……と、初めての曲作りのことをふと思い出して、全然大したことない話なんですが、忘れてしまわないうちに書き付けておくことにしました。