Babauoù in Private Notes

アマチュア音楽ユニット、Babauoùに所属するKunio (Josh) Yoshikawaの雑記帳です。 我々のFacebook "Babauoù Book”にもどうぞお越しください。

「おのれナポレオン」と伝説の誕生

 池袋の東京芸術劇場で、三谷幸喜作・演出「おのれナポレオン」を観てきました。
ニュースになっていましたが、天海祐希さんが病気降板し、宮沢りえさんが最終4公演で代役をつとめた舞台の千秋楽です。


 丸二日だけの稽古で本番に臨んだ宮沢さんの芝居は、ナポレオンに屈折した思いを寄せる女性の心を見事に表現しきって本当に素晴らしかった。カーテン・コールのスタンディング・オベーションはいつまでも鳴り止みませんでした。彼女の演技にかける純粋な思いと、野田秀樹さんと三谷幸喜さんへの深い信頼と尊敬が相まって、演劇界の伝説となるに違いない奇跡が生まれたのだと思います。その瞬間をこの目で見届けることができた幸福を感じます。この素晴らしい女優さんのこれからのキャリアをずっと見届けていきたい。初めてそんな気持ちになりました。

 
 宮沢さんの奇跡のインパクトがあまりにも強くて、恥ずかしながら作品そのものをフェアに鑑賞できたとは言えません。でも、野田さん演じるナポレオンが、軽々と常人を超えた存在になっていたこと、すなわち伝説になって然るべき人物として、演技巧者たちに囲まれる中で登場からラストまで徹頭徹尾その場の空気を支配していたことには圧倒されました。そして、三谷さんがチェスにからめて描いたナポレオンの死にまつわる物語は、野田ナポレオンの存在感を軸として、幾重にも謎を纏った素晴らしい歴史ミステリーに仕上がっていたと思います。もし映像で天海祐希版を観ることができるなら、ぜひもともとの三谷さんの狙いをあらためて確かめてみたいとも思いました。