Babauoù in Private Notes

アマチュア音楽ユニット、Babauoùに所属するKunio (Josh) Yoshikawaの雑記帳です。 我々のFacebook "Babauoù Book”にもどうぞお越しください。

究極のMusic Lover クインシー・ジョーンズ



 名前を聞いて、その仕事も顔もすぐに浮かぶプロデューサーは何人もいないのですが、クインシーはその中でも別格の一人だと思います。彼が30年ぶりに来日すると聞いて、先行予約でチケットを押さえていました。期待に違わぬ今年一番のライヴでした。


 19時スタートの第一部は日本人アーティストによるトリビュートライブ。亀田誠治(この人も顔と仕事が浮かぶプロデューサーですね)率いるバンドをバックに、MIYAVI、上妻宏光、綾香、JUJU、小野リサBoAゴスペラーズ等がクインシーがかつてプロデュースした代表的な曲の数々を演奏しました。全体にマイケル・ジャクソンの「Thriller」「Bad」からの選曲が多かったのですが、幕開け1曲目のMIYAVI(エレアコ)、沖人(スパニッシュ・ギター)、上妻宏光津軽三味線)による、ファンキーな「愛のコリーダ」がめちゃくちゃカッコ良かったです。特にMIYAVIのスラッピング・ギター(?)は、今他には無いワン・アンド・オンリーのグルーヴ&サウンドという気がして、クインシーにどう聞こえたのかとても興味があります。全体に、ミュージシャンたちの演奏にはほどよい緊張感とキレがあり、素晴らしいパフォーマンスでした。舞台袖でずっとクインシーが座って聴いていたことが大きく作用したのではないかと思います。ほとんどのミュージシャンは、袖のクインシーに尊敬をこめたひと言をかけてから歌(演奏)に入っていました。


 第一部で圧巻だったのは、中盤に登場した小曽根真&No Name Horsesの演奏です。亀田バンドが一旦はけて、かわりにビッグバンドを従えてジャズ・トリビュートを2曲やったのですが、曲は小曽根真のオリジナル。クインシーにインスパイアされた曲、とコメントがありましたが、かなり大胆な挑戦だったと思います。そして、この2曲が素晴らしかった。スリリングで、随所にクインシーを意識した立体的なホーン・アレンジが顔を見せ、しかもオリジナリティは抜群で、クインシーが喜ぶ顔が目に浮かぶような演奏でした。小曽根さんはその昔、バークレーの卒業証書をクインシーから受け取ったのだそうです。その時、クインシーから彼のレーベルに誘われたのですが、方向性の違いから当時は断ってしまった。今回はその埋め合わせをしたい、との想いがあると語っていました。


 第一部が終わって時刻は20時45分。これだけでも十分にお腹いっぱいのボリュームでしたが、もちろん本番はこれからです。休憩をはさんで第二部が始まったのは21時10分でした。


 まずは、春にラスベガスで行われた記念ライブで流されたショート・フィルムから。レイ・チャールズと組んだ最初のバンド、プロデューサーとしての彼の名声を決定的にしたフランク・シナトラマイルス・デイビスとの仕事、初全米ナンバー1の「涙のバースデイ・パーティ」、ソウルフルなビッグバンドジャズ、数々の映画音楽、そしてもちろんマイケル・ジャクソンの名盤群等あらゆる仕事を次々と紹介する映像からは、ジャンルを超えて良い音楽を愛する彼の姿勢があらためて伝わってきました。


 そして、ようやく本人の登場。若い女性ボーカリストをフィーチャーした「Air Mail Special」と「Killer Joe」でクインシーはビッグ・バンドを指揮しました。脚がかなり弱っているようで、杖や譜面台で身体を支えながらの演奏でしたが(前日は車椅子で出演したそうです)、彼の持ち味であるホーン・アレンジは相変わらず冴えていて、グルーヴィーなリフの応酬がとてもカッコ良く、音楽はエネルギーにあふれていました。


 2曲やって、クインシーはまた袖に引っ込んでしまいます。
ここからは、彼が世界中で発掘してきた将来有望な若手ミュージシャンのステージでした。12歳のピアニストEmily Bearや16歳のスロバキア出身ギタリストAndreas Varady、ビッグ・バンドでも歌ったカナダ出身の19歳Nikki Yanofsky。キューバ出身で地元の伝統的なリズムを巧みに採り入れたピアノトリオを率いるAlfredo Rodriguezなど。彼らの演奏に第二部の半分の時間を割き、聴衆に若く瑞々しい音楽の素晴らしさを余すところなく伝えようとするクインシーの姿勢に感銘を受けました。ビジネスとしての音楽シーンとは一線を画した音楽への純粋な情熱を感じます。


 ここでようやくパティ・オースティンがステージに登場。本家本元の「愛のコリーダ」からはクインシーのヒットパレードです。パティの「Say You Love Me」はなんと松田聖子とのデュエットでした。ジェームス・イングラムとパティのデュオによる全米ナンバー1ヒット「Baby Come to Me」、サイーダ・ギャレットは、自身がマイケルに書いた「Man in the Mirror」等々。
最後の2曲は、ジャズレパートリーを代表して、今日のジャズ系ミュージシャンがクインシーのビッグバンドに合流しての「Manteca」と、日米ポップ系ミュージシャン総登場での「We Are the World」。


 「We Are the World」というのはとても扱いが難しい曲だと思うのですが、クインシーは、この曲を自分のライブで堂々と演奏してサマになる唯一人の人物かもしれません。もともと込めていたメッセージが、今さらに必要な時代になっている、とコメントして演奏が始まりました。途中で、「おや、このパートはオリジナルそっくりだ!」と思って、よく舞台を見たらジェームス・イングラムが自分の所を歌っていました……。オリジナル・アーティストが居たことをすっかり忘れていました。ごめんなさい。


 終わったのは23時15分。気付いてみれば4時間です。まったく飽きることなく音楽を楽しみました。こんなに満腹感のあるライブは久しぶりです。個人的には今のところ、今年のベスト・ライブです。私もクインシーのように新旧分け隔て無く音楽を楽しんでいきたいと、自分の「音楽愛」にも再点火してもらった夜でした。