Babauoù in Private Notes

アマチュア音楽ユニット、Babauoùに所属するKunio (Josh) Yoshikawaの雑記帳です。 我々のFacebook "Babauoù Book”にもどうぞお越しください。

「マイノリティ・リポート」スピルバーグの志


「マイナリティ・リポート」を観ました。



 超能力者の未来予知を利用して、犯罪を未然に防ぐシステムを開発した未来社会。 そこの責任者であり、このシステムを信じているトム・クルーズは、自分が36時間後に殺人を犯すという信じられないデータを手にする。
「自分が人を殺す? ありえない!」
彼は決死の逃亡を試み、自らの無実をはらそうとする。


 結論から言うと、「まあまあ」の映画でした。予知された未来を変更する、という話ですから、時間ものSFの鬼門であるタイム・パラドックスの渦に自ら身を投じるようなリスキーな設定。 その矛盾はやはり拭い切れず、物語の中でもその矛盾に対する言い訳的な場面も見受けられました。


 ただ、スピルバーグはそのことを十分にわかっていて、この物語の世界観を、単なる科学的な未来ではなく、多分にファンタジックなものにしていました。 予知される被害者と犯人の名前が木のボールに焼き付けられて出てくる、というシステムや、ものすごく「鉄腕アトム」的な未来の道路の感じ。 探索機も針金で作った意志のあるクモのようなマシン。 タイム・パラドックスの問題をなるべく考えさせないように、という苦労と工夫の跡が伺えました。


 スピルバーグのテーマは明解です。 「未来は自分の意志で変えられる」 これを言いたかったのです。 ディックの短編は、それを語るためのかっこうの素材でした。

マイノリティ・リポート―ディック作品集 (ハヤカワ文庫SF)

マイノリティ・リポート―ディック作品集 (ハヤカワ文庫SF)


 世間では、「甘い」とか「偽善的」といわれることの多いスピルバーグですが、私は大好きです。 彼は映画が人に「夢」と「希望」を与えられることをきちんと信じているのが感じられるから。 そのためにあらゆる映画的な工夫を惜しまない姿勢にはとても共感します。


 「プライベート・ライアン」の冒頭30分間のノルマンディー上陸作戦のシーン。



 これまで見たことのない辛く、痛い戦闘シーンです。 もともとは台本で1〜2頁程度だったといわれるこのシーンをスピルバーグは、ニュースフィルムのような画面で、ひたすら痛みと死の恐怖を描き抜きました。 その結果、その後に続く、「一人の兵士を救うために、一部隊の人間たちが命を賭ける」物語を、単純なヒロイズムではなく、とても重い人間ドラマとして見せることに成功しました。


 スピルバーグは「産業映画」の権化ハリウッドにおいて、商業的な要請に答えながら、自分の理想とするテーマを表現する力を持つ数少ない監督のひとりだと思います。 がんばれ!スティーヴン!


(JOSH)