Babauoù in Private Notes

アマチュア音楽ユニット、Babauoùに所属するKunio (Josh) Yoshikawaの雑記帳です。 我々のFacebook "Babauoù Book”にもどうぞお越しください。

シルヴィ・ギエムのボレロ / ベジャール・ガラ



五反田ゆうぽうとホールで、東京バレエ団主催の「ベジャール・ガラ」を観てきました。
主目的はシルヴィ・ギエムが踊るラヴェルボレロを観ること。


ギエムは100年に1人とも言われる史上最高のバレエ・ダンサーの一人です。ただし、彼女には「バレリーナ」というゴージャスな響きのある呼び方があまり似合いません。表現から一切の妥協を排除するために、肉体の強靱さと柔軟さを限界まで追い求め、会得した身体表現の求道者・ギエム。まもなく44歳になる今も、それはまったく変わっていませんでした。


耳の横にぴたりと止まる、天に向かって垂直に伸びた足。さほど高くジャンプしているわけではないのに、スローモーションのように空中に留まる奇跡のような滞空時間。ストイックに同じリズムを刻みながら、次第に興奮の頂点に向かってゆくラヴェルボレロの音楽的高揚とあいまって、ギエムは美しくそして力強い完璧な舞踏空間を生み出していました。



19歳にしてルドルフ・ヌレエフからエトワールに任命されるという伝説の始まりから、パリ・オペラ座バレエ団との旧弊を打ち破る決別、バレエというジャンルを大きく逸脱していく革命的な舞踏表現の追求。伝説的振付師モーリス・ベジャールとの宿命的なコラボレーション。ドラマチックな彼女の半生も魅力的ですが、その生き方に裏打ちされた彼女の踊りそのものが本当に素晴らしくて、彼女をライブで観られる時代に生きられたことを心から感謝しています。


音楽と肉体の完全な調和を実現しているベジャールの「ボレロ」の振付は、映画「愛と哀しみのボレロ」によって、広く世に知れ渡るようになったと思います。映画でのジョルジュ・ドンのソロも圧倒的に素晴らしいパフォーマンスです。男性ではドン、女性ではやはりギエムが白眉なのではないでしょうか。周りを取り囲むダンサーが全員男性なので、ジョルジュ・ドンの舞台とシルヴィ・ギエムの舞台では同じ振付なのに描き出される世界が全く違うものになるのもとても面白いところです。


話がそれますが、映画「愛と哀しみのボレロ」は音楽を主人公とする映画では最高の作品のひとつだと思います。ラヴェルボレロが軸になっていますが、映画全体のオリジナル音楽をフランス音楽界のダブル巨匠、ミシェル・ルグランフランシス・レイが共作し、隠れた名曲のオンパレードを惜しげもなく繰り広げます。カラヤングレン・ミラー、ヌレエフ、エディット・ピアフをモデルにしたキャラクターの音楽と愛憎の物語が4つの国をまたいで第二次大戦から現代(といっても1980年のことですが……)まで描かれ、最終的にパリ、エッフェル塔の下でのボレロで登場人物全員が一堂に介する音楽大河ロマンです。
何とDVDが廃盤らしいので、「五つの銅貨」と共に早く再DVD化をお願いしたいと思います。


愛と哀しみのボレロ(完全版)

愛と哀しみのボレロ(完全版)