Babauoù in Private Notes

アマチュア音楽ユニット、Babauoùに所属するKunio (Josh) Yoshikawaの雑記帳です。 我々のFacebook "Babauoù Book”にもどうぞお越しください。

ミシェル・ルグランはすごかった


渋谷オーチャード・ホールでの、ミシェル・ルグラン&グランドオーケストラのコンサートに出かけてきました。凄かったです。いろいろな意味で。


75歳になるミシェル・ルグランが指揮し、ピアノを弾き、歌います。まず凄かったのは、指揮をしながら弾く彼のピアノ。手数が多いのもすごいんですが、ミスタッチも気にせず、気が乗ってきたらテンポもどんどん果てしなく走っていっちゃう。指揮者がフルオーケストラを置き去りにしていく様を初めて見ました。しかも自分の曲なのに。


シェルブールの雨傘」「風のささやき」等、彼の書く楽曲の緻密さから、とても精密な演奏が展開されるステージを想像していたのですが、まったく逆でした。ピアノだけでなく、アドリブで歌うスキャットも本当に気分のおもむくまま、という感じ。正直ハラハラするところもたくさんありました。


ところが、では、音楽として破綻していたのか、というと、全然そんなことはありませんでした。これが本当に凄かったことです。


ものすごくテンションのきつい音でスキャットしたりするフレーズには、憧れのミシェル・ルグランメロディのエッセンスがやはり存分に漂っていて、スキャットすればするほど、周りを揺さぶりながらミシェル・ルグランの音楽世界が広がっていきました。


そして、ほとんど破壊的に突っ走るマエストロの気まぐれを堂々と受けて立つドラムの村上"ポンタ"秀一さんも凄かったし、たぶんそういうマエストロに慣れているであろうオーケストラの、置き去りにされようが動じず、守るべきところはきちんと守る泰然とした演奏も凄かったけれど、何よりも凄かったのは、そういう揺さぶりや反撃の応酬が、最終的にものすごく楽しいライブの音楽となって、客席に届いていたことです。


歌手のゲストが多く出ましたが、シャンソン歌手・クミコさんが歌った「リラのワルツ」がとてもよかったし、曲名を忘れてしまいましたが、サプライズ・ゲスト森山良子さんとのデュエットもとても素晴らしかった。
そして、映画「シェルブールの雨傘」でも歌っていた実姉クリスチャンヌ・ルグランとのデュエット。非常に器楽的なメロディラインが多いミシェル・ルグランの曲は、音域が広くて、若い歌い手でも難曲ぞろいだと思いますが、75歳以上の男女のデュエットとは思えない艶がありました。二人のスキャットのかけあいもスリリングで素敵でした。さすがにアンコールではちょっと声をからしていましたけど。


個人的には映画「愛と哀しみのボレロ」から「世紀末の香り」をやってくれたのが嬉しかったです。フランシス・レイと共同で音楽を担当したこの映画は、これまでに観た「音楽を主人公とした映画」のなかでももっとも好きな作品のひとつです。3時間4分という長い映画ですが、音楽の持つ生命力と、人と人の心を結ぶ力にあふれた素敵な作品だと思います。未見の方はゆったりとした時間を過ごしている時に是非。


それにしても「風のささやき」をピアノで弾き始めて、途中でやめて、コンサートマスターに「これキー何だっけ?」ときいていたのには本当にやられました。自分の曲だろ!しかも絶対自分のアレンジなのに(笑)。
たぶんオリジナルとアレンジ版のキーが違うせいで間違えたのだと思いますが。で、このアレンジが本当にカッコ良かったです。スイングと非スイングを行き来しながら螺旋状に盛り上がっていく展開。曲のエッセンスを知り抜いた人でなければできないアレンジだったと思います。


世界でいちばん美しいメロディと、それを破壊する寸前でひた走るスリリングな演奏。想像していたコンサートとはちょっとタイプが違ったけれど、歳を重ねても、音楽を創る喜びに身を委ねて、まず自分が最大限に楽しみ、その楽しさを観客と最大限にわかちあうマエストロの魅力をたっぷり堪能して帰ってきました。


ミシェル・ルグランはやっぱりすごかった。