Babauoù in Private Notes

アマチュア音楽ユニット、Babauoùに所属するKunio (Josh) Yoshikawaの雑記帳です。 我々のFacebook "Babauoù Book”にもどうぞお越しください。

チェ・28歳の革命


とても素晴らしかった。
作るべくして作られた映画、という印象です。


もっとも印象的なのは、噂に違わぬベニチオ・デル・トロの芝居。紛れもないヒーローの位置で、紛れもなくヒロイックな人物像をそのまま演じているのですが、決して超人的な存在ではない。そのことを表現するためにわざと弱い部分を見せるようなこともなく、その居ずまいそのものにたっぷり屈託を滲ませている。とても人間的なチェ・ゲバラを表現していました。


映画はドキュメンタリー的な表現と劇映画的な表現の間を終始行き来しているのですが、彼の人間としての存在感が揺るぎないので、そんな風に表現手法が揺れてもブレを感じることが全くありませんでした。普通に芝居を組み立てて行ったら、どちらかに必ず違和感が出るものだと思います。「凄いだろう」という演技とは対極にあるベニチオ・デル・トロの凄さ。国際的映画賞を次々に受賞するのも当然と思えました。


この映画はビデオカメラで撮影されています。現在のハイビジョンの4倍の解像度を誇る総走査線4000本の次世代ビデオカメラ。特徴はこれまでのどんな映像よりも記録できる情報量が豊かなこと。このことをとても有効に利用していたと思います。特に感じたことは二つ。


まずは、弱い明かりでもディテイルが出せるので、照明をほとんど当てずになるべく自然な光で撮影していること。もちろんリアリティが断然増していくし、照明に束縛されないということは俳優の演技にも自由度が増します。カメラマンも、直感的なオペレーションをしやすくなります。


もうひとつはこの映画のテーマにも関わる意識的な使い方。ある風景の中をチェ・ゲバラの一隊が進んで行く時、彼らはゲリラですから当然陰を歩きます。このカメラのダイナミックな映像は、陽光を浴びる美しい(あるいはギラついた)緑の風景と、その手前の陰を歩くゲリラたちの、静かだが感情にあふれた表情の両方を同時に見せきることに成功しています。明るい所と暗いところのディテイルを両方同時に記録することは通常とても難しいのですが、この表現が可能になったことが、ゲリラを描写する上でとても強い効果を発揮していました。


テーマを狙い以上に浮き彫りにしていく配役やカメラのチョイス。ソダーバーグ監督の映画の仕掛けにはいつも発見があります。続編「チェ〜38歳別れの手紙」は同時期に撮ったにも関わらずタッチも違うし、画面サイズも違うそうです。革命に成功する本作は地平を広く見せるハリウッド的なシネスコサイズでしたが、失敗していく続編はよりヨーロッパ映画的で、テレビ表現にも近いビスタサイズを選択しているようです。手法も一層ドキュメンタリー寄りになっているとのこと。その効果がどう出ているのか、期待して続編を観に行きたいと思います。


※ソダーバーグ監督はインタビューで「映画よりも実在の人物の方がハンサムな初めての映画」だと語ったそうです(笑)。確かにそうかも……。